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最高裁判所第一小法廷 昭和58年(行ツ)42号 判決

東京都千代田区内幸町一丁目二番二号

大阪ビル第二号館八六四号

上告人

吉永多賀誠

東京都千代田区神田錦町三丁目三番地

被上告人

麹町税務署長

酒井保一

右指定代理人

崇嶋良忠

右当事者間の東京高等裁判所昭和五七年(行コ)第七号所得税更正処分取消請求事件について、同裁判所が五八年一月二五日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由第一及び第二点について

原審の適法に確定した事実関係の下において、本件顧問料収入は給与所得ではなく事業所得に当るとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原判決を正解せず又は独自の見解に基づいてその違法をいうものにすぎず、採用することができない。

上告人のその余の上告理由について

所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。右違法があることを前提とする所論違憲の主張は、前提を欠く。論旨は、ひつきよう、独自の見解に基いて原判決を論難するものにすぎず、作用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一一条、九五条、八九条に従い裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高島益郎 裁判官 谷口正孝 裁判官 角田禮次郎 裁判官 大内恒夫 裁判官 佐藤哲郎)

(昭和五八年(行ツ)第四二号 上告人 吉永多賀誠)

上告人の上告理由

上告理由第一点

一、原審の判示

原審判決は、その理由一の2において「控訴人は、本件顧問料収入が法所定の所得の種類上給与所得に当ることの根拠として、(1)本件顧問料収入は実際に法律相談を行うと否とにかかわりなく顧問先会社との顧問契約により当然得られるものである(下略)ことを挙げるけれども前述したとおり、控訴人は右顧問契約により法律家としての独立の立場において顧問先会社からの求めに応じてその都度意見を述べるに止まり、顧問先会社の指揮、監督下においてその業務に従事するわけでないのであり、控訴人挙示の右(1)の点は本件顧問料収入が給与所得に当ると解すべき根拠となりうるものではない」と判示した。

顧問先会社において顧問弁護士に法律問題につき意見を求める問題が発生しないため顧問弁護士の意見を求めることがなかつた場合に契約によつて顧問弁護士に支払われる顧問料の性質についてこれを如何に解すべきかの判断をしていない。これは判決理由の不備であり審理不尽である。

右顧問契約に基づき顧問弁護士が受ける報酬は顧問弁護士の給付する労務に対する対価若しくはこれに対する給付として支給せられるのではなく、右契約に於て顧問先会社の要求あるときは何時でも労務を給付すべき義務負担に対する対価であつてその所得は給与所得である。

東京地方裁判所昭和四〇年(行ウ)第七〇号昭和四三年四月二五日判決、行政裁判例集第一九巻四号七六三頁

同庁同年(行ウ)第七一号同年同月同日判決、判例時報第五二四号三八頁

東京高等裁判所昭和四三年(行コ)第二七号同四七年九月一四日同庁第二民事部判決、東京高等裁判所民事判決時報第二三巻九号一四三頁

同庁同年(行コ)第二八号同年同月同日判決、訟務月報第一九巻三号七三頁

最高裁判所昭和四八年(行ツ)第三号同五三年八月二九日第三小法廷判決、訟務月報第二四巻二号二四三〇頁

上告理由第二点

一、原審の判示

原審の判決は、その理由一の2において「控訴人は、本件顧問料収入が法所定の所得の種類上給与所得に当ることの根拠として(中略)(2)これを得るのに何らの経費を必要としないことを挙げるけれども、(中略)控訴人は前期の場所に法律事務所を設け、使用人を使い、必要な経費を支弁するなど、独自の計算において、弁護士業務を営んでいるので、右顧問契約とこれに基づく法律相談等はその業務の一環として行われているのであるから、本件顧問料収入を得るのにこれに直接対応する経費の支出を要しないからといつて、本件顧問料収入が給与所得に当ると解さなければならない合理的理由はない」と判示した。

所得税法は次のように規定している。

第二七条一項事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得をいう。

2項、事業所得の金額は、その年中の事業所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額とする。

第三七条第一項、その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るために直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする。

第二一条は居住者に対して課する所得税の額は、次に定める順序により計算するとし、その第一号で次章第二節(各種所得の金額の計算)の規定によりその所得を利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得、一時所得又は雑所得に区分し、これら所得ごとに所得の金額を計算すると定めている。

右諸規定により明らかなように事業所得についても他の九種の所得と各別に事業所得としての必要経費を計算し、その必要経費は事業所得の総収入金額を得るために直接に要した費用及び事業所得を生ずべき業務について生じた費用を控除して計算するものであり原審判決のいう収入に直接に対応する経費、必要経費をいうのであつて、投資を伴わないで生ずる所得は事業所得とはならないのである。事業所得は費用を投じ、その結果として得られる所得をいうのである。

右にいう必要経費とは事業所得の総収入金額を得るために直接に要した費用をいうのであるから原審判示の「法律事務所を設け、使用人を使い、必要な経費を支弁するなど、独自の計算において弁護士事業を営んでいる」費用は顧問料収入を得るために直接に要した費用ではないのである。必要経費とは、いわゆる資源を減少させる経費支出であり、かつ財貨の獲得を最終の目的とする支出であり、その後に発生する具体的収入との間に経済的因果関係ないし代償関係を有する支出である。必要経費は財貨増殖のための資源からの支出であるから資源のないところに必要経費を生ずる余地はないのである。原審判決は所得税法所定の必要経費の性質を誤解し上告人の顧問料収入を以て必要経費即ち財源を支出した結果、これに因つて得られた収入と判断し、法令の解釈適用を誤つた違法がある。

上告理由第三点

一、原審の判示

原審の判決はその理由一の5において「控訴人は、本件日当が控訴人の収入となつたと言うのであれば、これから必要経費が全然支出されなかつたことを被控訴人において立証すべきであることを主張するけれども、控訴人はいわゆる青色申告者なのであるから、本件日当が全額必要経費に充てられたと言うのであれば、納税義務者たる控訴人の側で会計記録上このことを明らかにしなければならない」というがそれは誤つている。

所得税は所得に対して賦課するもので、所得のない所に課税はない。納税者が会計記録上その支出の明細の記録を欠いたことに因つて所得を構成しない収入、必要経費として支出した金銭につき納税義務が発生する理由はない。所得税法中青色申告者が会計記録上その支出明細を明らかにしないときは支出なきものとしてそれは課税するという規定はないので、これを理由とする課税は税法に基づかない課税で憲法第三〇条並びに第二九条違反であり無効である。

上告人は昭和五〇年、同五一年、同五二年分の旅費受入として左のとおり申告したのである。(甲第一、二、三号証)

支払者名 昭和五〇年 昭和五一年 昭和五二年

増田勝治 四八〇、六〇〇円 四二六、七六〇円 四二九、二〇〇円

古川恒平 三八四、四二〇円 一五四、四六〇円 一六七、五二〇円

清野富美 五二、二二〇円 - -

右旅費の内訳は左のとおりである。

支払者名 昭和五〇年 昭和五一年 昭和五二年

増田勝治分

日当 三一五、〇〇〇円 二五五、〇〇〇円 二四〇、〇〇〇円

宿泊料 八八、〇〇〇円 七二、〇〇〇円 六四、〇〇〇円

汽車賃 七七、〇〇〇円 九九、七六〇円 一二五、二〇〇円

古川恒平分

日当 一九五、〇〇〇円 六〇、〇〇〇円 六〇、〇〇〇円

宿泊料 五六、〇〇〇円 一六、〇〇〇円 一六、〇〇〇円

汽車賃 一三三、四二〇円 七八、四六〇円 九一、五二〇円

清野富美分

日当 三〇、〇〇〇円 - -

宿泊料 八、〇〇〇円 - -

汽車賃 一四、〇〇〇円 - -

右のうち被上告人が否認した分は左のとおりである。

支払者名 昭和五〇年(日当) 昭和五一年(日当) 昭和五二年(日当)

増田勝治 三一五、〇〇〇円 二五五、〇〇〇円 二四〇、〇〇〇円

古川恒平 一九五、〇〇〇円 六〇、〇〇〇円 六〇、〇〇〇円

清野富美 三〇、〇〇〇円 - -

被上告人も原審も上告人の主張する旅費のうち宿泊料、汽車賃の費目及び金額については、その承認理由を示さないが、日当のみを否認する。その否認の理由として、被上告人は「事業所得の金額の計算上旅費交通費として必要経費に計上している(金額略)のうち事件依頼者に係る日当の合計額(金額略)は必要経費とは認められません」としている。(昭和五〇年、五一年、五二年所得額の更正通知書)又その理由として「会計記録上このことを明らかにしなければならない」が明らかにしていないというにある。

併し上告人は会計記録上右宿泊料、汽車賃、日当の三者を旅費として一括受入れ、又旅費として一括支出しているので会計記録上の処理は同一であるので、会計記録上の処理に籍口して宿泊料、汽車賃と日当とを区別し前二者を認め後者を否認する理由とすることは出来ない。これを認むべき理由は一般社会の通念上出張するときは宿泊することも必要であり、汽車に乗ることも必要であり、日当を支弁することも必要でありかつこれらの費用の支出を回避して出張旅行することが出来ないことが公知であるからである。

出張旅行につき宿泊料、汽車賃、日当を必要とすること、上告人主張のその額が適正妥当であることが公知である事実は日本交通公社発行の国鉄監修時刻表の記載により明らかであるからである。

右時刻表は日本国内の定期刊行物中その発行部数が第一位である。その記載の内容は全国民の間に周知徹底してるところである。

先ず汽車賃についてみるにその粁程、乗車券代、急行料金代、指定券代等は逐一その明細を会計帳簿に記載せずして明らかである。

次に宿泊料についてみるに右時刻表の社団法人日本ホテル協会会員ホテルの広告末尾によれば「上記の料金は、室料のみで、食事代、サービス料、税金は含まれておりません」とあり一夜の室料のみの料金で一人室では二万五千円より下は五千円よりであるが、一人室のないホテルがかなり多数あり、一人室のないホテルでは一人でも二人室を利用しなければならない場合が多い。一人室でも通常は七千円位であるが、これにサービス料一割七百円、飲食税五百円を加えると八千二百円となり上告人の受ける一夜八千円の宿泊料では不足することが明らかである。

上告人は日当として一日につき金一万五千円を受け、これを以て食事代、タクシー代、その他の諸雑費を支弁するのであるが、そのうち夕食代は大体一回分七千円位、飲物代二千五百円、サービス料九百五十円、料理飲食等消費税九百五十円、計一万一千四百円、朝食代は千百円又は千三百円、これにサービス料百十円又は百三十円で計金千二百十円又は千四百三十円を要求する訳である。タクシー代は事務所から発駅(東京駅又は上野駅)に至るタクシー代往復分大体千二百円又は三千円、着駅から裁判所までのタクシー代往復分である。上越線長岡駅と新潟地方裁判所長岡支部との間は大体往復千五百円、予讃線西条駅から松山地方裁判所西条支部までのタクシーは大体往復千二百円、福知山線伊丹駅から神戸家庭裁判所伊丹支部(伊丹市千僧一丁目七番地)までのタクシーは往復三千五、六百円を下らないので日当一日一万五千円では不足を生ずる。

なお外に宿泊予約の電話料、車中の新聞代、茶代、コーヒ代等を要するのであるが、これらに充当する費用は不足する場合がある。

大体旅費は厘毛の差もなく終始するものの実額ではない。所得税法第九条第一項第四号には「その旅行について通常必要であると認められるもの」と定めてある。即ちその旅行にとつて通常必要であると認められる金額はたとえ残余があつても課税しないこととされ、厚生施設等の利用から生ずる利益についても課税が行われていない。田中二郎著・租税法四五頁。

国家公務員の旅費に関する法律の規定は、民事訴訟費用等に関する法律第二二条の日当、宿泊料の支給基準についてもその規定に従うことになつている。法曹会・民事費用等に関する執務資料一四〇頁

原審判決も被告人も共に上告人が増田勝治の依頼により新潟地方裁判所長岡支部、古川恒平の依頼により高松高等裁判所、松山地方裁判所西条支部、清野富美の依頼により神戸家庭裁判所伊丹支部に出張した事実は認むるところである。而して右各出張は何れも裁判のため、裁判所の呼出による出張で、日当はその旅行中のホテル等の夕食代、朝食代、事務所と駅、駅と裁判所との間の各往復タクシ代等旅行のためには必要欠くことの出来ない諸経費として支出したものである。依つてこれを否認するにはその支出の必要を免れたとか、支出の必要はなかつたものであることを主張、立証することを要する。(左記判決参照)

昭和二五年一二月二〇日、鳥取地方裁判所判決(行)第二八号行政事件裁判例集第一巻第一〇号一三六〇頁

昭和二六年一二月一〇日、福岡地方裁判所民事第四部判決、昭和二五年(行)第一六一号行政事件裁判例集第二巻一二号二一八〇頁

昭和二七年四月一〇日、秋田地方裁判所判決、昭和二六年(行)第九号行政事件裁判例集第三巻三号五一二頁

昭和三八年三月三日、最高裁判所判決、昭和二六年(オ)第一、二一四号訟務月報第九巻五号六六八頁

昭和四二年四月二六日、広島高等裁判所岡山支部判決、昭和三七年(ネ)第一五八号同三八年(ネ)第一二〇号行政事件裁判例集第一八巻六一四頁

昭和四八年九月六日、大阪地方裁判所民事第二部判決、昭和四三年(行ウ)第五九三号税務訴訟資料第七一号九八頁

昭和四八年一二月、一一日、大阪地方裁判所民事第二部判決、昭和四一年(行ウ)第八四号の二税務訴訟資料第七一号一、一四〇頁

上告理由第四点

一、原審の判示

原審判決の引用する第一審判決はその理由二の2本件日当ついての(二)において左のとおり判示した。

「本件日当が原告が事件を受任した時に取り決めた報酬とは別に、事件出張の際にあらかじめ依頼者から旅費、宿泊費とともに支払われた金銭であることは当事者間に争いがなく、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、右日当は、その中から旅費、宿泊費に含まれていない出張中の少額の諸雑費の支出が予定されていることが認められ、その限りにおいて右日当の一部には、一面必要経費の前払いとしての性質を有する部分のあることは否定しえない。しかし右日当は、このうち現実に支払つた雑費分を超える金額を変換を要するものではないし、またその金額(弁論の全趣旨から一日当り一万五〇〇〇円であると認められる。)に照らして考えても一定期間事務所を離れて当該事件のために拘束されることに対する報酬としての性質をも有することは明らかであるから、本件日当は全額実費弁償金として必要経費に計上することは許されないものであつて、本件日当のうち、客観的に業務と直接関係をもち、かつ業務の遂行上必要な目的のために支出されたもののみが必要経費として控除されうるものと言わなければならない。しかるに原告は、単に本件日当はその出張の日時に受領額と同額をすべて必要経費として支出したと主張するにとどまり(もとより本件全証拠によるも右事実を認めるに足りない。)各費目ごとの具体的な支出先、支出金額を明確にせず、また、原告は青色申告者であるのに、原告本人尋問の結果によれば、原告は右諸経費の支出年月日、支出先、支出金額を確認するに足りる何らの帳簿上の記載もせず、原告自身現在では右各項目を明らかにすることが出来ないことが認められるから、本件日当を必要経費と認定することは許されないと言わなければならない。よつて、原告の主張は採用できない。」

原審判決は日当の性質を弁識しない不法があるものである。

日当は実費弁償の性質を有する旅費の一種で、費した日数に応じて定額で支払われるもので労務の量に関せず、その支払額は報酬の性質を有しない。国家公務員等の旅費に関する法律第六条第六号には「日当は、旅行中の日数に応じ、一日当りの定額により支給する」と定め、民事訴訟費用等に関する法律第二二条第一項には「日当は、出頭又は調べ及びそれらのための旅行に必要な日数に応じて支給する」と定めてあつて、日当なるものは日数に応じ一日当りの定額で支払われるもので役務の対価としての報酬を含まないし、精算を要しない性質のものであることが明らかである。刑事訴訟法第三八条第二項は前項の規定により選任せられた(国選)弁護人は、旅費、日当、宿泊料及び報酬を請求することができると定め、日当は報酬に含まれないことを明記してある。

原判決は日当は相当長期にわたり事務所を離れて当該事件のため拘束されることに対する報酬としての性質を有することも明らかであるというが、日当は長期にわたらなくても、事務所所在地を離れなくても、当該事件で拘束されなくても支払われるものである。

民事訴訟費用等に関する法律第二条四号、五号を見ればこのことが明らかである。即ち日当は期日に出頭するためのもので原審判決及びその引用する第一審判決は日当の法令上の性質を全然弁識せずかかる判決をなしたもので、法令を誤解し、その適用を誤つたものである。

裁判所においても民事訴訟法に関する法律や、刑事訴訟法、調停法、少年法等に基づいて証人や鑑定人や弁護人や通事に支払われる日当は課税の対象になつていない。(甲第一一、一二号証)このことは公知の事実である。

日当と所得税法との関係は左のとおりである。

(一) 日当は所得税法第二七条第一項の「事業から生ずる所得」でない。

(二) 日当は同法同条第二項の「事業所得に係る総収入金額」に該当しない。

(三) 日当は同法第三六条第一項の「所得金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額」に該当しない。

(四) 日当は同法第三七条の「事業所得の計算上必要経費に算入すべき金額」にも「所得の総収入金額に係る売上原価その他当該収入金額を得るため直接に要した費用の額」にも「販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずる業務につき生じた費用」にも該当しない。

(五) 日当は同法第一四八条の「事業所得の金額に係る取引」にも該当しない。

(六) 日当は同法施行規則第六三条の「取引」に関しない。

(七) 日当は国税庁基本通達一一六の「年額又は月額により支給せられる旅費」にも該当しない。

(八) 昭和二七年三月改正所得税法の取扱方についての昭和二七年四月三〇日付国税庁長官より各国税局長宛直所一-六六の三の「役務の報酬」同上の二九の「当該役務の提供に対する対価たる性質を有するもの」にも該当しない。

原審判決は日当の金額に照らして考えても一定期間事務所を離れて当該事件のために拘束されることに対する報酬としての性質を有することは明らかであるというが、上告人の場合は上告理由第三点に記載したように日当一日一万五千円では一日の諸雑費(ホテル代、夕食代、飲み物代、サービス料、飲食税、タクシー代)を支弁し、場合により不足を生ずる価額である。原審が前記の如く報酬としての性質を有するものと断定するには証拠に基づくことを要するもので、証拠に基づかない右の判断は判決理由の不備である。

原審判決は日当は旅費、宿泊費に含まれない出張中の諸雑費として必要であることを認定しながら、本件日当は全額実費弁償金として必要経費に計上することは許されないものであるというが、その理由の説示がなく、本件日当のうち、客観的に業務と直接関係をもち、かつ業務上必要な目的のために支出されたもののみが必要経費として控除されうるものと言わなければならないと判示した。果して然らば日当額中業務と直接関係をもち、かつ業務上必要な目的のために支出された金額を認定してその余を否認すれば足りるので、日当額中業務と直接関係をもち、業務上必要な目的のため支出した金額までも否認することはできない。

何となれば国家には所得を構成しない収入に対する課税権はなく収入から必要経費を控除した所得に対してのみ課税権を有するに過ぎないからである。

原審判決の引用する第一審判決は上告人は(日当金額)各項目ごとの具体的な支出先、支出金額を明確にせず、上告人は青色申告であるのに、右経費の支出年月日、支出先、支出金額を確認するに足りる何等の帳簿上の記載もせず、控訴人自身現在では右各項目を明らかにすることが出来ないことが認められるから、本件日当を必要経費と認定することは許されないと言わなければならないと判示したが、旅費の費目は汽車賃、宿泊料、日当の三費目の外に出ず又具体的な支払先を明記することはその必要がないのである。徴税庁と雖ども商人の取引先なら別であるが、汽車賃、ホテル室料、飲食費、サービス料、タクシー代、飲食税の支払先はその明記の必要をみないところで、これを記載しても何等意味のないところである。

一般に出張する旅毎に夕食代、朝食代、タクシー代、新聞代、お茶代、弁当代を逐一記帳しかつその帳簿と受領証又は支払証明書等を編綴し、七年間(所得税法施行規則第六三条)保存している者は納税者に誰一人もあるまい。それは社会の常識である。ジユリスト五六七号所得税の諸問題という座談会で元大蔵省主税局長、事務次官現国鉄総裁高木文雄氏はサラリーマンが百人中九九人までが経費の記帳をしていない、同人自身もそうであるという。夕刊代、コーヒー代まで日当で支弁した費目と金額を記帳せよというのは非常識な議論である。又右ジユリストの座談会で高木氏は「税のためだけ帳簿をつけなければならないような仕組をすることは必要がないことじやないか、現実を踏まえて、それはやればいいのであつて……」と述べている。

所得税法第一四八条第一項には「第百四十三条(青色申告)の承認を受けている居住者は、大蔵省令で定めるところにより、同条に規定する業務につき帳簿書類を供え付けてこれに不動産所得の金額、事業所得の金額及び山林所得の金額に係る取引を記録し、かつ、当該帳簿書類を保存しなければならない」と定め所得税法施行規則(大蔵省令)第五十六条には青色申告者は、法第百四十八条第一項により、その不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務につき備え付ける帳簿書類については次条から第六十四条までに定めるところによらなければならない。ただし当該帳簿については次条から第五十九条まで、第六十一条及び第六十四条の規定に定めるところに代えて、大蔵大臣の定める簡易な記録の方法及び記載事項によることができると定めている。その五十七条第一項には「所得の金額が正確に計算できるように次の各号に掲げる資産、負債及び資本に影響を及ぼす一切の取引(以下この節において取引という。)を正規の簿記の原則に従い整然と、かつ、明りように記録しなければならない」とし、その第二号には「事業所得については、その事業所得を生ずべき事業に係る資産、負債及び資本」とある。

昭和四二年八月三一日大蔵省令第百十二号には所得税法施行規則第五十六条二項、第五十八条第一項及び第六十一条第一項の規定に基づき、これらの規定に規定する記録の方法及び記載時効、取引に関する記載事項、並に科目を次のように定めるとし、その別表一、事業所得の部(イ)一般の部(一)現金出納等に関する事項の第一欄備考及第二欄備考には何れも少額な取引については日々の合計金額のみを一括記載することができるとしている。上告人が一回の出張の一回の日当を一括記載したのはその日(口頭弁論開廷日)出廷の日当を一括記載したものである。右大蔵省令も少額の支出(コーヒー代、新聞代、たばこ代等)を一括記入することを予定している。尤も日当を以て支弁する金銭の支払先、国有鉄道、ホテル、タクシー会社への支払は所得税法第五十七条の取引には該当しないのでその支出の記録義務は上告人にはない。それらの支払は資産、負債及び資本に影響を及ぼす一切の取引に該当しないからである。

されば上告人が記帳により汽車賃、タクシー代、ホテルルーム代、ホテル食事代等の支払月日、支払先、支払い金額を立証しないことを理由に日当全額を事業所得として課税したのは法律の定めに基づかない課税で憲法第二十九条、同第三〇条、同第八四条違反であると共に立証責任顛倒の民事訴訟法違反である。

上告理由第五点

一、原審の判示

原審判決の引用する第一審判決はその理由五において次のように判示した。

「原告は、本件顧問料収入及び本件日当についての法律判断の相違により過少申告となつたのであるから、過少申告加算税を賦課することは許されないと主張するが、右はひつきよう原告が独自の理論に基づき法律解釈を誤つたものにすぎず、到底国税通則法六五条二項の正当な理由があると認められる場合に該当しない。よつて、本件加算税の賦課決定が適法であることは言うまでもない。」

二、然れども法律解釈についての意見の相違は国税通則法六五条二項の理由となるのである。(大阪高等裁判所昭和四五年(行コ)第二二号同四七年(行コ)第一号昭和五〇年九月三〇日判決行政事件裁判例集第二六巻一一五八頁)原審の引用する第一審の右の判示は誤りである。依つて原審の判決は破棄しなければならない。

以上

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